|
続伊豆大島航海記録 |
|
|
|
23日(土) |
|
5:45 起床 朝食(スパゲテイ。タラコ・ミート・カレー) |
|
空が白み始めた。大島の夜明けだ。VTRを廻す。 |
|
数隻の漁船がエンジン音を響かせて早々と出港した。気温は想った以上に高い。 |
|
三人が漸く目を覚ました。 |
|
朝食は佐藤が担当。スパゲッティ。芥子明太子、ミート・ソース、カレーの三色山盛りだ。 |
|
珈琲を飲みながら本日の予定を話し合う。明日の天気予報が優れない。 |
|
状況次第ではナイト・セーリングをしてマリーナまで直行することに決定した。 |
|
7:40 出港 崖の上から高校生らしき輩が手を振る サークリング Goood−bye |
|
もやいを解いて離岸。港の中央でもう一度ゆっくりと波浮を見回す。 |
|
鴎が一羽浮標の上で羽を休めていた。 |
|
崖の上に眼をやる。中学生か高校生か判らないが、生徒らしき一団が懸命に手を振っていた。 |
|
それに鳥山と佐藤が手を挙げて応える。英はビデオカメラを抱えたままいつものように愚にもつかない事 |
|
を叫んでいる。 |
|
私はティラーを大きく切って三百六十度ターン、サークリングで応えてからバウを沖に向けた。 |
|
8:00 セールオン |
|
波浮港を抜けると直ちにセールを揚げる。フルメイン・フルジェノア。 |
|
風が弱すぎる。機帆走で五ノットといったところか。だが穏やかな海もたまにはいい。 |
|
・・・・・本日はティラーをまだ握っている。筆岩の方に白帆がみえた。 |
|
私達と入れ替わりに波浮に入るのだろうか。 |
|
9:00 北の風 艇速伸びず、距離稼げず |
|
いっこうに大島は遠ざかってゆかない。 |
|
昨日、雨の中であれほど恋い焦がれたのに、いまは、もう疎ましく思っている。本当に人間という奴は勝 |
|
手な生き物だ。 |
|
【男と女の関係に似ている。と思うのは私だけだろうか?】 |
|
|
|
後方に白色の巨大船が見えた。 |
|
日本籍最大のクルーズ客船、排水量約二万九千トン『飛鳥』の試験航海だった。 |
|
飛鳥は東京湾を目指して航行しているらしい。優雅な姿を取り合えずビデオに治めた。 |
|
洋上でこの種の船をじっくり見る機会はそう多くはないだろうから。 |
|
飛鳥のデッキ上でも我々に気づいたようで右舷に人が集まってきた。 |
|
飛鳥が僅かに傾いた。 それはありえない!。 |
|
10:00 排気煙 白? エンジン停止 風安定せず スピン揚げ 取りやめ |
|
私はデッキで寝ていた。 |
|
「白い煙が出ています」と佐藤が言いに来た。スターンを覗きこむ。確かに排気管から白煙が吹き出して |
|
いた。エンジン停止。原因を話し合う。 |
|
『燃料にオイルが混入した』と云う説が一番有力だが『では何処から』と云う問には誰も答えられない。 |
|
再びエンジン始動。白煙は収まらない。 |
|
入港時に使用できないと非常に困るのでエンジン停止。 |
|
本日は帆走のみで房総半島に向かう事にした。それにしても風が弱い。 |
|
風が後ろに廻ってきた。スピンを用意する。セットしてハリヤードを引かせた。スピンソックスの流れ方が |
|
今一つ思わしくない。半分ほど開いたが取りやめた。 |
|
11:00 風が廻って追ってになってきた。 スピンUP 私は手慣れている。 |
|
艇速UP 推定8ノット |
 |
風が追ってになってから暫くたった。漸く安定してきた。 |
|
再度スピンを揚げた。今度は問題なく展開。 |
|
久しぶりにブルー・ホワイト・レッドの三色の花弁が開いた。 |
|
艇速がのびた。 |
|
|
私以外の三人には初めての体験だ。それなりに感激していたよ |
|
うに思える。 スピントリムは私がやらざるをえない。 |
|
ヘルムスは佐藤がそのまま継続。風が弱い所為もあるがどうに |
|
(スピンラン:撮影は別の日) |
かこなしていた。 |
|
|
|
艇は穏やかな海を静かに進んでいた。暫くして佐藤と鳥山がヘルムスを交代。鳥山はスピンランがよく |
|
理解っていない。裏風が入ってスピンネーカーがたびたび踊った。 |
|
鳥山の風下側のシートに座した。ティラーに手を添えた。 |
|
12:00 風がふれてきた スピン降下 艇速5ノット |
|
風が回り込んでアビームラン、もうスピンは使用できない。収納。艇速が落ちた。 |
|
房総半島はいっこうに姿をあらわさない。 |
|
「見えた。」佐藤が指さした。確かに陽炎のなかに白い建築物らしき物が見えた。 |
|
『だが訝しい。その後ろにある筈の稜線が見えない。』約十分後コンテナ船である事が判明した。 |
|
13:00 房総半島が見えてきた。 大島の島影いまだ消えず。 |
|
今度は本物の千葉県だった。歓声が上がった。ビデオ撮影 |
|
艇の位置を確認したかった。だがGPSは使用不可能だ。物標から判断するしかない。 |
|
海図を広げる。眼を凝らして物標をみる。紅白の鉄塔が見えた。 |
|
艇は予想以上に西よりを北上していた。正面左端は州崎だった。 |
|
右端が布良でその陰に野島崎があるはずだった。 |
|
海岸線を見ながら東よりに南下。だいぶ回り道をしてしまった。しかしそれでも有視界航行になると気が |
|
楽だった。 |
|
前方にサンフラワーが見えた。佐藤が近寄る事を提案した。余裕の出てきた証拠だ。船腹の向陽葵マ |
|
ークがはっきり見えるところまで近付いて行った。ビデオ撮影。 |
|
それにしても腹が減ってきた。 |
|
|
|
14:00 強風 波高し ワンポイント |
|
海象が激変した。絶え間無く白波が襲ってきた。風圧はその威力を増し艇を大きくヒールさせた。 |
|
ブロー。メインシートを緩めて風を逃がす。鳥山がよく頑張ってティラーを握っている。 |
|
「リーフする。佐藤!ヘルムスを鳥山と代われ」そう叫んで私はコクピットを抜け出した。 |
|
デッキを波が洗う。スタンディング・リギンに捕まりながらマストにたどり着いた。 |
|
「佐藤!風にたてろ!」艇が風上を向いた。 |
|
「メイン降ろせ!」メインハリヤードが緩められた。 |
|
セールを引き下ろした。グースネックのフックにリーフクリングルを掛けた。 |
|
「メイン揚げろ!」怒鳴りぱなしだ。 |
|
しかしメインセールが揚がって行かない。鳥山が必死になってウィンチを廻している。 |
|
「馬鹿!それはリーフロープだ。ハリヤードは隣の太い方だ!」 |
|
コクピットに戻りジブをファーリングした。ヒールの度合いが多少減った。操船が僅かながら楽になった。 |
|
14:30 ツーポイント |
|
風は追手だった。艇は疾走していた。大波がスターンから襲ってきた。サーフィングの連続だ。 |
|
佐藤が懸命にティラーを操作していた。私ははトリマーに徹していた。 |
|
風速が一段と増してきた。波高も三メートルをすでに越えていた。ヒールが更にきつくなった。 |
|
再度リーフする事にした。再びコクピットを抜け出してマストに向かう。 |
|
艇の揺れは先刻以上に激しい。デッキ上の作業はサーカスに等しかった。 |
|
ツーポイントリーフを完了した。コクピットに戻ろうとした。 |
|
!。鳥山が風下側のウィンチの周りで格闘している。見るとジブシートが二本絡み合っている。 |
|
「どうした?」 |
|
「ジブをファーリングしようとして緩めたときに抜けちゃった。」英が応答えた。 |
|
エンドは確実にエイトノットをしてあった。それにも関わらずリーダーから抜けたのだった。 |
|
ブローにより瞬間的に想像を絶する力がジブシートに加わったに違いない。 |
|
二本のシートは互いに絡み合ってどちらも譲ろうとはしていなかった。 |
|
「どちらでもいい!ウィンチで引け!」鳥山が一本をウィンチに巻き付けクランキングした。 |
|
ジブセールが風を孕んだ。 |
|
「もう一本の方、放してもいいですか?」「ダメだ、暴れると危険だ!」 |
|
鳥山が遊んでいる一方を他方を軸にして周回させた。もつれが取れてきた。 |
|
私はバウでそのシートのクリューアウトホール側を掴み、引いた。完全に解けた。 |
|
デッキを移動。エイトノットを解きリーダーに通す。再びエイトノット。 |
|
セルフティリングウィンチへリード、コクピットに戻った。 |
|
短いシートを三本持ち再びデッキへ。 |
|
ツーポイントの場合はリーフしたセールが垂れ下がり視界が非常に悪くなるのだ。ドグハウスに腰を降 |
|
ろしブームに締結。 |
|
15:00 ヘルムス交代 サーフィング マックス20ノット |
|
野島崎沖を過ぎたばかりだった。千倉までは、まだまだ距離があった。 |
|
「ぽせいどんさん、代わって。疲れちゃった」佐藤が一時間余りの死闘についに音をあげた。 |
|
私はティラーを握った。少々緊張する。 |
|
サーフィング。波は絶え間無くスターンより襲いかかる。ミスは絶対に許されない。 |
|
ワイルドジャイブをおこせば艇は翻弄する。落水。遭難。即、死につながる。 |
|
艇速はおよそ十ノット。波高が益々高くなった。振り返ると小山のような波がすぐ後ろに迫っている。 |
|
性根を決めた。波頭が艇を呑み込むように立ち上がった。スターンが持ち上げられた。 |
|
セールは十二分に風を孕んでいる。急激な加速。奈落に向かって一気に滑り落ちる。 |
|
体感速度は二十ノットを大きく越えていた。 |
|
「Oh!」悲鳴とも歓声ともつかない声が誰からか漏れた。 |
|
・・・・・・・・・・ |
|
|
|
格闘する事、約四十分。見覚えのあるKDDタワーが微かに見えてきた。後少しだった。 |
|
しかし千倉港はまだ視認出来ない。だが風が緩んできた。波高も二メートルほどに落ちた。 |
|
艇速も落ちてきた。 |
|
千倉港をはっきり視認出来る頃には海は嘘のように穏やかになってきた。 |
|
風も同様に落ちた。ティラーを鳥山に預けた。 |
|
ツーポイントでは艇速が落ちすぎていた。が、みんな疲れていた。ジェノアのみをフルに広げた。 |
|
ビデオを廻す余裕が出てきた。記念写真。 |
|
港。南側の暗礁地帯を大きく迂回した。漁船が漁をしている。 |
|
不安を覚えながらエンジン始動。セルが回る。『かかった』しかしすぐに停止。 |
|
帆走入港の煩わしさを思い浮かべる。再度スタータ・ボタンを押す。ダメだった。 |
|
三度めで漸くかかった。アクセルを少々上げる。白煙は最初の数分だけだった。 |
|
何事も無かったかのようにエンジンは回転している。 |
|
ジェノア、ファーリング。メイン、ダウン。バウを港に向けた。 |
|
夕陽が紅く染まっていた。 |
|
16:00 千倉入港 |
|
スピンを干している艇がこちらに向かって何か叫んでいた。 |
|
空きバースを無断借用した艇だった。うちの艇を見て所有者と思い声を掛けてきたのだった。 |
|
16:15 係留 鳥山クリート結び出来ず。吉田に電話 鳥山と買い出し。 |
|
「鳥山も、この三日間でだいぶ成長したな」と、佐藤と話ながらもやい綱をビットに結んだ。 |
|
「クリート」そう言いながら端を鳥山に渡した。 |
|
!?。ロープをクリートに廻して悩んでいる。前言撤回。 |
|
すでに四時を過ぎていた。公衆電話に急ぐ。HYに千倉泊を告げた。 |
|
艇に戻ると解装はすでに終えていた。 |
|
本日も昼食抜きだった。流石に空腹である。夕食の相談。材料が少々淋しい。 |
|
買い出しに出かけることにした。鳥山が一緒に来た。千倉港の近くには商店の類が少ない。 |
|
一昨日行ったコンビニエンス・ストアーまでは、疲労した身体にはかなりの距離であった。 |
|
18:00 夕食(肉団子どんぶり・ワンタンスープ他) |
|
夕飯を喰い終わるとアルコールだ。俺はミネラルウォーター。しかしこれでは酔わない。 |
|
話はいきおい荒天帆走の事になる。少なからず興奮していて、みんなよく喋る。 |
|
佐藤がヘルムスを取っていた時間を三時間と言ったがそれはサンフラワーに出会った時間から否定さ |
|
れた。 |
|
「でも二時間はティラーを握っていたはずだ」と主張したが後にビデオを見ると僅か一時間程であった。 |
|
18:30 かたづけ |
|
三人が後かたづけをしている間に煙草をくわえて外に出た。 |
|
入港時に声を掛けられた艇の前まで歩いた。三十五フィートといったところか、スターンにレーダードー |
|
ム迄着けている。艇名を見る。『おいどん』何処かで聞いたような名前だ。記憶を探る。 |
|
八十七年、第一回メルボルン〜大阪カップに出場した艇と同じ艇名だ。 |
|
しかし勝浦に『摩利支天』や『海太郎』があるくらいだから確かな事とは言えない。 |
|
午後八時。『おいどん』のキャビンライトが点灯。佐藤と話し表敬訪問する事にした。 |
|
鳥山も一緒に行く事になった。佐藤はヘッドに用があるので後から顔を出すこととなった。 |
|
岸壁から声を掛けた。私達は歓迎された。たぶん。 |
|
艇に入るとオーナー、オーナー夫人、二人の娘サン(小学生)とクルーの男性一人がいた。適当に席を |
|
設けられ、ビールをすすめられた。 |
|
私は例によって辞退したが二人は飲んだばかりだが断る理由がない。 |
|
『おいどん』は、やはり五千五百マイルを走り抜いた艇だった。 |
|
※『おいどん』 ヤマハC35CR オーナーHF氏(四十四歳)神田生まれ |
|
夫人はK子サン、娘サンはM子チャン、Aチャン |
|
レース結果 総合二十五位 クラス九位 |
|
話しはまず本日の帆走から始まった。(詳細は省く。) |
|
昨日の雨は知らなかった。油壷付近には雨は無かったらしい。 |
|
メルボルン〜大阪カップの話しを拝聴。艇を辞す。 |
|
消灯までにはまだ時間があった。佐藤と岸壁で暫く雑談。 |
|
「ここまで来れば、後僅かですね。」 |
|
「イヤイヤ、まだ安心は出来ない。故事に『百里の径を行く者は九十九里を半ばとしろ』とある」 |
|
|
|
24日 |
|
6:30 出港 朝食(汁粉) |
|
六時起床。少々寒いが幸いな事に雨は降っていなかった。 |
|
「雨がいつ降ってくるか判らないから、すぐ出ましょう。飯は走りながら喰いましょう」と佐藤。 |
|
岸壁にあがり防波堤のむこうを眺める。荒れている様子はない。漁船の姿も見える。 |
|
佐藤の提案を受け入れた。公衆電話に走りHYに電話を入れた。 |
|
「小用が終わり次第に家を出る。鴨川辺りまで行く」 |
|
「そこまで来なくともいい」 |
|
「では、小湊まで?」 |
|
「いやマリーナから呼んでみてくれ。たぶん昼前に入港出来るだろうから。」 |
|
エンジン始動。問題は無いようだ。素早く艤装。直ちに離岸。『おいどん』はまだ眠っているようだ。 |
|
出港。エンジン回転数千五百。定置網を交わすためにまっすぐ沖へと向かう。 |
|
佐藤が餅を焼き汁粉を作った。鳥山と英に先に朝飯をとらす。 |
|
「セール揚げないのですか?」佐藤がキャビンの内から聴く。 |
|
「二人が終わってからにしよう」 |
|
港を出てから五百メートル程走ると二人が喰い終わった。 |
|
「メイン揚げ!ワンポイント」「リーフするんですか?」 |
|
「フルメインには簡単に出来る。暫く様子を見よう」 |
|
鳥山がマストについた。リーフクルリングをフックに掛ける。英がハリヤードを引く。ワンポイント完了。 |
|
続いてジェノアを展開く。フルジェノア。艇は機帆走に移った。 |
|
ヘルムスを鳥山と代わり朝食。甘い物は普段はほとんど摂らないがたまに喰う汁粉もいいものだ。 |
|
まして艇の上だとなおのことだ。英がビデオを廻す。 |
|
|
|
三日間ほとんどランニング気味の走りだった。が最終日の今日は、もろクローズだ。 |
|
二十五海里をタックの連続で切り上がって行かなければならない。 |
|
しかし本日はエンジンが快調に廻っている。昼前にマリーナに到着するだろう。 |
|
懸念していた風が出てきた。ワンポイントにしておいたのは正解だった。 |
|
艇は二十度のヒールを保ったまま順調に走っていた。 |
|
次第に北の風が強くなってきた。ブローが吹くと三十度以上にヒールする。 |
|
ジブをファーリングする。 |
|
波が岸の方から押し寄せ始め、次第にその高さを増してきた。風のパワーが想像つくだろう。 |
|
「もっと岸よりを走りましょう。山の陰に入って、その方が風が弱いでしょう。」佐藤が提案した。 |
|
タック。コンパスがNWを示す。KDDタワーが正面に見えた。このまま行けば千倉に戻ってしまう。 |
|
暫くしてタック、沖へと向う。艇速はかなり出ているのだが、ファーラー艇の宿命で、昇り角度が悪い。 |
|
滅多に動かさないトラベラーを調節する。メインセールを最高にまで引き込んだ |
|
風速はすでに十メートルをコンスタントに越えていた。ツーポイントリーフにしたい。 |
|
鳥山にやらせてみようかと一瞬思った。がもしもの事を考えた。パパになったばかりのことだし・・・・・・。 |
|
ティラーを佐藤に託す。コクピットからデッキにのり出した。毎度の事ながら荒天時のデッキ作業は辛い |
|
ものがある。しかし昨日の今日だ、馴れていた。素早くリーフを完了してコクピットに戻った。 |
|
|
|
千倉港を出たときには微かに見えていた勝浦が視界から全く消えた。 |
|
そればかりか鴨川の周辺も霞んで来ていた。波も風もいっこうにその勢力を失わない。 |
|
ブロー!ついに最大ヒールが、コンパスに付いているヒール計の目盛りを振り切った。 |
|
推定六十度オーバー。キャビンの内ですさまじい音がした。コンパニオンウェイから覗き込むと圧力鍋が |
|
ころがり、その他諸々が床の上に散らかっていた。 |
|
アマ無線でHYを呼んだ。応答無し。まだマリーナに着いていないようだ。 |
|
相変わらず距離が稼げない。昼前入港が怪しくなってきた。 |
|
ヘルムスは鳥山だった。よく頑張っていた。不安は無かった。 |
|
逃げ場の無いこの一航海が鳥山の技量を初心者のレベルから脱しさせたに違いない。 |
|
仁右衛門島をやっと交わして鴨川沖に到達した。本日の航行予定の半分を漸く消化した。 |
|
慣れとは、おそろしいもので荒天時でも不安感が薄れて行く。 |
|
事実三十度を越すヒール、ブロー、絶え間無いスプレー、そんな中で居眠りが出る。 |
|
脚は風下側のシートに突っ張り、手はライフラインに廻っていても睡魔が襲ってくるのを禁じ得ない。 |
|
「とにかく落水だけはするなよ。落ちたら救助出来る保証はないからな」時々念を押した。 |
|
小湊を過ぎると漸く勝浦の稜線が見えてきた。行川を迂回。鵜原沖合い、海中公園が潮に煙っていた。 |
|
勝浦湾にホテル三日月とMNのマンションが重なって微かに見えた。もう少しだった。 |
|
「ここまで来たら、半分終わったと言っていいですかね」佐藤が昨夜の話しを思い出し、笑いながら言っ |
|
た。鳥山そして英の顔にも笑みがこぼれていた。 |
|
波が少々落ちてきた。艇はハーバーリミットを越えるまで後僅かの所まで来ていた。 |
|
ビデオカメラを取り出した。感激の顔と声を撮る。 |
|
HYからの電波を受信。 |
|
「JM1***、こちらはJL1***いま何処にいますか?」 |
|
「勝浦湾のすぐそばに来ているよ・どうぞ」 |
|
「さっきから双眼鏡で探しているけれど見えない・どうぞ」 |
|
「何処から見てますか?・どうぞ」 |
|
「山の上からです・どうぞ」 |
|
「近くに漁船もいるぞ、よく見てみろ・どうぞ」 |
|
「・・・・・・ア!判った。すぐ近くじゃない」 |
|
数分、本日の航海のことを話す。 |
|
「セールを降ろすから切るぞ」 |
|
「解りました。マリーナで待っています」 |
|
ジェノアをファーリング。メイン、ダウン。朱鳥居がやけに懐かしい。 |
|
「フェンダー降ろせ」 |
|
HYの姿を岸壁に見つけた。手を振っていた。こちらも手を振ってそれに応える。 |
|
入感。「写真を撮るから全員こちらを向いて」とのこと。 |
|
歓声を挙げながら三人が手を振る。 |
|
「アメリカス・カップに勝って凱旋しているようだな」と私が言う。 |
|
入港直前。「サークリングするぞ」と言い、私はティラーを右いっぱいに切った。 |
|
艇は静かに左旋回をした。 |
|
11:15 入港 |
|
・・・・・・・・・・ |
|
乾杯。私も普段は飲まないビールを干した。 |
|
おわり |