漁師から聞いたイルカのはなし
齢、七十を迎えんとする漁師から聞いたはなしです。
彼が語るには一昔前、房総沖合いではイルカは珍しいものではありませんでした。
漁にでれば、それこそイルカの群れに頻繁に遭遇したそうです。
彼が若い時に乗っていた漁船は『突きん棒船』でした。
『突きん棒』とはカジキマグロを捕る漁です。
背鰭を出して泳ぐカジキを見つけ、ひたすら追いかけます。
手練の者が舳先に長い銛を持って立ち、カジキの背にそれを突き刺し捕る漁です。
しかし毎回カジキが捕れるわけではありません。
収穫の無かったそんな時にイルカの群れに出くわしたならば、
時には手慰みに、あるいは僅かの糧にするためにイルカを捕ったそうです。
漁法はもちろん『突きん棒』です。
舳先からイルカを目掛けて突き刺します。夥しい血が海面を染めます。
「そうなっと(そうなると)イルカはさぁ、狂っちゃうんだよ」
「ピィー、ピィー、ピィー、ピィー、鳴いてさぁ」
「そっで(それで)逃げねえんだよ。船の周りにいつまでもいるんだよ」
「あれは親子か夫婦だよねきっと」
「だからさぁ、イルカは一匹捕ると、必ずあと何匹かは捕れるんだよ」
「............」
非常に訛りが強かったので判りやすい表現にかなり変更しています。